|
梅雨を慕う心に、海の底の都
部屋はいただいた、たくさんのカサブランカの香りが霧のように立ち込めています。私は泳ぐように流れる時間に身を任せています。去りきらない疲れと次のシーンへの期待とがゆっくりと渦を巻いています。終らない旅。今夕、訪ねてきた若い写真家に「私のコレクションに来られて、幸せと思っていただいたら、誰かが幸せになっていると信じています。だから、リスクを負ってでもショウをしようと思うんですね。」と、話しながら、ああ、確かに私は有名になりたいとか、大きくなりたいとか思ったことが一度もなかったと思うのです。「美」のもつ力を信じて、この悲しみと苦しみの溢れた世界を何とか、喜びで埋めていきたいと願ってここまできました。私ができることで。気がつけば多くのひとびとと関わり、助けられている自分です。
心を見抜ける方が、私の作品を求めたとしても、そこに邪まな思いを決して見出せない自信はあります。私はこの仕事を好きなのではなく、愛しているのですから。私一人の力ではないのです。
やがて、東京も梅雨がやってきます。一年一度、本当にかぎられた期間の季節。いつの間にか私が好きになった。私は人間から、自然になろうと願っているのかもしれません。
東京のアトリエにて
|