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建辰月までのゆるやかな路
私の友人たちが、「時広は一体どこへ行こうとしているのだろう。」とある時話題になったそうです。心配してではなく、捉えどころのない私への興味なのでしょう。私自身はその答えを知っています。2003年を越え、今は木瓜、梅、椿の花が咲き、沈丁花の甘い香りが家々とひとびとの間を流れゆくこの季節までのしばらくの旅。時間の順序を無視して思い出すままに点描していきます。
マニラよ
空を見下ろす
時折、島が見えるが、日本とは違う深く熱をもった緑。ぐるりとあれは珊瑚礁なのか、朝の始まりの淡い緑色をしている。海が空に、空が海に、私は逆さまに飛んでいるのではないかという軽いめまいのような錯覚をおぼえる。いつもは見上げる雲たちを今は見下ろしているのだから。
島に住んでいる人間の場所なんか、ほんのわずかで圧倒的な自然の量。もちろん、ここから人の姿など見えるはずもない。そんな存在。
その人間がこの巨大な自然を、星を何度も破壊できる力をもっている傲慢。純白と光と澄んだ青の世界に、私は知らず神を探そうとしていた。
クアラルンプールに向かう機上で
妖精の世界で
六月、マレーシアの首都、クアラルンプール(KL)で上演される舞台「RASHOMON」のメインキャストの衣裳デザインを依頼され、一月につづき再びKLにきました。ワークショップで私の作品集を見た受講生が、プロデューサーに連絡しあっという間に決まってしまったのです。
ホテルではなく、プロデューサーのレジデンスに滞在しています。谷のそこをハイウェイが走り、両側に高級住宅地の一角が広がります。夜になればここからの眺めはまるで妖精の世界。向かいの小山のむこうには世界第一の高さを誇っていたペトロナス・ツインタワーがその王宮のようにみえるのです。現地の人の生活空間に身をおくことで異国情緒はより深く感じます。彼らはまだ休んでいて、私は冷たいオレンジジュースをグラスについで、ただ 朝を感じています。ゆっくりと、大きくな深呼吸(日本では久しく忘れていた)と同時に、心にコトリと音がして私は大きな何かへと想いが向かっていくのがわかります。
目の前のあまりに平和な風景とわたし。この瞬間にも世界で誰かが。
心が敏感になってきて美しいものも哀しいことも、青いシミをつくります。さあ、プールでひと泳ぎして優しくなりすぎた心に力を与えましょう。太陽は靄を強い陽射しで蹴散らし始めました。時の隙間にふと現われたもう一人の時広です。
無数のちぎれ雲が、夕日に導かれていくように、求めていくように見えます。マニラからクアラルンプールへ向かう飛行機の中。1月3日から10日まで滞在したマニラでの時間と空間。初めての国と街に混乱していた私が、今はたくさんの温もりの思い出と全てが親しみに満ちた笑顔を携えて新しい国へ向かっています。人が人としてあるきっかけで繋ぐ絆。現実の世界を思い幸福を祈ろうとする私が、フッと実感を失うのです。この旅は息をしている現実の世界を知らせます。
変わる変わらない。
マニラ。人ごみの中、淀んだ川と饐えてた匂い。紅に染め抜いたマニラ湾の夕日と海の色。ワークショップを受講するメンバーの懸命な顔、金をせびる子供たちのしたたかな顔つき、激しい貧富の差。雲の中をゆき視界のきかない窓を眺めながらあてどなく思い出します。私という人間の在り様を。私はこの国を再び訪れるのでしょうか。私は感謝する“祈る”ことを知る弱い人間であることを。この世界に私ができるささやかなこと。あの国は日本以外の世界を実感させてくれたのです。
クアラルンプール、バングサル近く友人のテラスで
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